🎋 放置竹林から生まれる「第二の煤竹」 ― 再生する竹工芸と循環の試み

竹を埋めなおして再生させている 竹の工芸と美

🪶 要約: この記事では、放置竹林という社会課題から生まれる「新しい竹の循環」に注目します。失われつつある伝統素材「煤竹(すすだけ)」を現代の知恵で蘇らせる挑戦を通して、暮らしと自然が再び調和する道筋を探ります。

📋 目次

  1. 🌾 はじめに ― 煤竹が生まれなくなった背景
  2. 🍃 放置竹林という”再生の入口”
  3. 🔥 職人たちの挑戦 ― 再生の竹工芸
  4. 🌱 竹を「現代の資源」へ変える試み
  5. 💬 よくある質問(Q&A)
  6. 💫 まとめ ― “時間の手渡し”としての竹

🌾 はじめに ― 煤竹が生まれなくなった背景

囲炉裏のある家屋が一般的だった時代、竹は長い年月をかけて煙に燻され、自然に色味と質感を変えていきました。
こうして生まれた煤竹は、囲炉裏の煙に長期間さらされることで独特の飴色と艶を持つ、非常に希少な建材・工芸素材として扱われてきました。

しかし、住宅様式の変化により囲炉裏のある暮らしはほとんど見られなくなり、新たな煤竹が自然に生まれる環境も失われました。

一方で、山間部では竹林の管理が難しくなり、十分に手入れされない竹林が拡大しています。

※農林水産省が公表している資料によると、全国の竹林面積は約16〜17万ヘクタールとされ、管理が行き届かない竹林が増加傾向にあることが示されています。
この状況は、景観や周辺森林への影響だけでなく、竹という資源が活かされにくくなっている現実も表しています。

竹が「使われなくなった素材」になりつつある今、
現代の技術と工芸によって、時間をかけて育てる価値をどう再構築できるのか。
その試みが、「第二の煤竹」という発想につながっています。

※林野庁HPより₋竹の利活用推進に向けて

まっずぐ伸びた竹

🍃 放置竹林という”再生の入口”

いま日本各地では、人との関わりが薄れた「放置竹林」が深刻な地域課題となっています。 手入れが途絶えた竹林は日光を遮り、土壌の環境を変化させ、里山の循環を乱す要因となります。しかし、その「停滞した時間」の中にこそ、新しい資源としての活用法を見出そうとする挑戦が始まっています。

放置竹林がもたらす環境の変化

竹は成長が早い植物です。
条件が整った場合、一部の品種では1日に80〜120cmほど成長することがあります。

その力が管理の枠を超えたとき、里山の環境に以下のような影響を及ぼすことが指摘されています。

  • 生態系への影響 成長の早い竹が周囲の樹木を覆い、日光を遮ることで、他の在来植物が育たなくなる「竹害(ちくがい)」が起こります。
  • 土石流・土砂災害のリスク広葉樹などに比べて竹の根は浅い層(30〜50cm程度)に横に広がる性質があります。そのため、放置された竹林が広がることで斜面全体の保水力や土壌の緊縛力が低下し、大雨の際の土砂崩れリスクを増大させる可能性が専門家から指摘されています。
  • 農地や居住地への浸入 地下茎(ちかけい)が驚異的なスピードで伸び、隣接する農地や住宅の基礎にまで影響を及ぼすケースが増えています。
  • 獣害の温床 密生した竹林は野生動物の格好の隠れ場所となり、周囲の農作物を荒らすシカやイノシシの活動を助長する要因の一つとなっています。

自治体の調査報告では、10年単位で竹林面積が20〜30%程度増加した地域もあり、あわせて生物多様性の変化が指摘されています。

💬 一口メモ
竹を計画的に伐採し、用途を見出すことは、荒れた環境を整える行為であると同時に、竹という資源を循環へ戻す第一歩になります。

高く伸びた竹林を歩く夫婦

🔥 職人たちの挑戦 ― 再生の竹工芸

失われつつある「天然の煤竹」を待つのではなく、自らの手で「次世代の素材」を創り出そうとする職人たちがいます。その挑戦の核となるのが、最新の技術と伝統の知恵を融合させた**「人工燻煙(じんこうくんえん)」**という手法です。

放置竹林から切り出された竹を専用の窯に入れ、温度や湿度を精密に管理しながら、数日間かけて煙で燻し上げます。この工程により、竹の糖分を分解して防虫・防カビ効果を高めるだけでなく、100年の歳月をかけたかのような深い色艶を再現することに成功しました。

しかし、職人たちのこだわりは「見た目」だけではありません。放置竹林の竹は、手入れされた竹林のものに比べると肉厚や節の間隔が不安定なこともあります。職人たちは、その一本一本の個性を「自然の造形美」として捉え直し、あえて歪みを活かした茶道具や、現代のインテリアに馴染む繊細な竹照明へと昇華させています。

「放置された竹は、決して劣った素材ではない。ただ、使い手との出会いを待っていただけだ」――。そんな職人たちの熱意が、厄介者とされた竹に新たな命を吹き込みます。伝統を「守る」だけでなく、現代の課題を糧に「攻める」竹工芸の姿が、そこにはあります。

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枯れた木にかけられたリサイクルの木の看板

🌱 竹を「現代の資源」へ変える試み

放置竹林から切り出された竹は、単に廃棄されるのではなく、現代のライフスタイルに寄り添う資源へと生まれ変わっています。

1. 竹チップ・竹パウダー ― 土に還る循環

細かく砕いた竹チップは有機資材として農地に還り、土壌改良や雑草の抑制に活用されています。

  • 農業利用: 竹に含まれる多糖類が微生物の活動を助け、土壌の通気性を高める効果が期待されています。
  • 畜産利用: 乳酸発酵させた竹パウダーは家畜の飼料添加物として利用されており、家畜の健康維持を目的とした研究・導入が各地で進んでいます。
  • 事例: 福岡県八女市の取り組みでは、整備で出た竹をチップ化し、地域の農家へ提供。土壌の物理性改善や保水力の向上に寄与しています。

2. バイオマスエネルギー ― 火の循環を取り戻す

竹を炭化させた竹炭や、ペレット化したバイオマス燃料は、カーボンニュートラルなエネルギー源として注目されています。

  • 事例: 高知県いの町では、竹を燃料とするボイラーを公共施設等に導入。地域の未利用資源をエネルギーとして循環させることで、化石燃料の削減と地域経済の活性化を両立させています。

3. 建築・土木資材 ― 強さと軽さの再発見

竹はしなやかさと高い圧縮強度を併せ持つため、現代の技術で加工され、建材としても見直されています。

  • 竹集成材: 床材や家具材として、独特の質感と耐久性が高く評価されています。
  • 土木資材: 地下茎の強さを活かした土留め(どどめ)や、斜面保護の資材として、環境負荷の少ない工法に採用されています。

4. 消臭・環境資材 ― 優れた吸着力を活かす

竹炭の多孔質構造(目に見えない無数の穴)は、優れた吸着力を発揮します。

  • 活用法: インテリアに馴染む消臭剤や、建築用の調湿材として商品化されています。
  • 市場の動向: 環境配慮型製品(エシカル消費)への関心が高まる中、プラスチック代替素材としての需要も拡大しています。

これらの取り組みは、竹という素材が持つ「循環の力」を最大限に引き出し、環境整備と地域振興を同時に叶える未来志向の試みといえます。
人と時間の対話から生まれた必然です。

参考URL
祓川温泉施設への木質バイオマスボイラ導入事業について
福岡県八女市-竹対策の取り組み


煌々と燃える火

竹灯籠ワークショップが紡ぐ「新しい火の記憶」

放置竹林を資源として活用する動きは、工芸品やエネルギー利用に留まりません。各地では、子どもたちが自ら竹を加工して灯籠を作り、夜を優しく照らすワークショップや祭りが広がっています。

🌙 竹灯籠ワークショップの広がり

各地で、子どもたちが参加する竹灯籠づくりの体験型ワークショップや地域イベントが行われています。
放置竹林から切り出した竹を使い、灯りをともすこれらの活動は、地域資源の活用と学びの場を兼ねた取り組みとして定着しつつあります。


地域に根づく取り組みの例

竹あかりプロジェクト(静岡県浜松市)
毎年秋に開催され、地域の小中学生を中心に参加者を募り、放置竹林から切り出した竹を使って多数の灯籠が制作されています。
完成した竹灯籠は遊歩道などに設置され、夜の景観づくりに活かされています。

たけた竹灯籠 竹楽(大分県竹田市)
城下町一帯を舞台に、数万本規模の竹灯籠が並ぶ秋のイベントです。
期間中は多くの来場者が訪れ、地域を代表する催しとして知られています。


これらの活動は、竹を素材とした灯りづくりを通じて、火と人が集う空間を現代的な形で再構成したものです。
囲炉裏のある暮らしが減った現在でも、竹と光を介した体験が、地域の中で新たな交流の場を生み出しています。

竹あかりの文字が書いてある竹あかり

教育現場での竹林整備活動 ― 未来の職人と環境を育む

現在、学校教育の場においても、放置竹林問題を「生きた教材」として活用する動きが広がっています。単なる自然体験に留まらず、社会課題の解決と伝統文化の継承を同時に学ぶ「探究学習」の題材として注目されています。

資源の価値を「体験」から学ぶ

生徒たちが自ら竹林に足を運び、竹を切り出し、それを加工して製品化やイベントに活用する。この一連のプロセスを体験することで、以下のような学びが生まれています。

  • 地域資源の再発見: 厄介ものと思われていた竹が、工夫次第で価値ある資材に変わることを実感する。
  • 持続可能性(サステナビリティ)への理解: 自然に人の手が入ることで里山が守られる「循環」の仕組みを体感する。

未来の「煤竹」を育てるということ

かつての煤竹は、100年という長い歳月が自然に生み出した奇跡の素材でした。生活スタイルが変わった現代において、当時と全く同じ条件で煤竹が生まれることはもうないかもしれません。

しかし、放置竹林を整備し、その竹を現代の技術で燻(いぶ)し、あるいは新しい素材として活用し続けること。その「竹を慈しみ、使い切る」という文化の種を次世代に引き継ぐことこそが、形を変えた「未来の煤竹」を育てることに他なりません。

放置竹林という課題の先に、新しい竹文化の豊かな風景が広がっています。

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🪴 よくある質問 ― 竹と向き合うために


Q1:人工煤竹は天然煤竹と見分けがつきますか?

専門家や職人の中には、表面の色合いや経年変化の差から見分けられる場合があるとされています。
天然の煤竹は、長い時間をかけて燻されることで生まれる深い色味や質感が特徴です。

一方、人工的に加工された煤竹は、色調や仕上がりが比較的均一で、安定した品質を確保しやすい点が評価されています。
用途や求める表情によって選ばれています。


Q2:個人で放置竹林の伐採はできますか?

条件付きで可能ですが、土地所有者の許可が必要で、地域の条例や安全面への配慮も欠かせません。
竹の伐採には、鉈や鋸などの道具に加え、ヘルメットや手袋などの安全装備が必要です。

多くの自治体では、竹林整備のボランティア活動や体験プログラムを実施しており、指導を受けながら参加できる機会も用意されています。


Q3:竹製品を購入することで、放置竹林問題に関われますか?

放置竹林由来の竹を使った製品を選ぶことは、竹の利用価値を高め、整備活動を支える一つの方法になります。
購入時には「地域産」「竹林整備由来」などの表示を確認すると、背景が分かりやすくなります。


Q4:竹の伐採に適した時期はありますか?

地域や利用目的によって異なりますが、一般的には秋から冬にかけてが適しているとされることが多いです。
この時期は竹の水分量が比較的少なく、虫害やカビが発生しにくいため、加工や保管の面で扱いやすいとされています。


💫 まとめ ― “時間の手渡し”としての竹

竹の再生は、里山の自然を蘇らせるだけでなく、私たちの暮らしの中に息づく「文化」を再構築する試みでもあります。

放置竹林を適切に管理し、活用することは、人と自然が共生する健全なリズムを取り戻すことに他なりません。現在、日本では自治体や民間企業の協力により、年間数万トン規模の竹材が放置竹林から切り出され、チップやエネルギー、そして新しい工芸素材として活用され始めています。

竹資源の利活用に関する市場は発展途上ではありますが、脱プラスチックやカーボンニュートラルの潮流を受け、そのポテンシャルは高く評価されています。未利用資源であった竹が、地域経済を支える新しい産業の芽として注目されているのです。

竹の灯りが再びともるとき、そこにあるのは単なる過去への郷愁ではありません。それは、先人が培ってきた知恵を現代の技術でアップデートし、これからの百年へと繋いでいく”時間の手渡し”なのです。


🌿 あなたにできること

  • 地域の竹林整備ボランティアに参加する
  • 放置竹林由来の竹製品を選んで購入する
  • 竹灯籠づくりワークショップに参加する
  • 竹炭や竹パウダーを家庭菜園や消臭に活用する
  • SNSで竹林再生の取り組みをシェアする

小さな一歩が、次の百年を育てる力になります。


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